What is Nadia

「ふしぎの海のナディア」は1990年4月13日から1年間,NHK総合で毎週金曜日(19:30--)に放送された海洋冒険活劇アニメです.奇抜なストーリー展開と,ユーモラスなキャラクター描写は,日本をはじめ世界中の人々に今でも愛されています.

総監督は,「新世紀エヴァンゲリオン」でもおなじみ庵野秀明氏.彼にとってナディアは初のテレビシリーズであり,かなりむちゃくちゃな部分もありました.また,彼がもつ世界観,思想をナディアの中で描き,「大人とは何か」,「善とは」など思春期に誰もが抱える悩みを取り上げ,そして,その答えを示すことはありません.見ている人が答えを出さなければならないのです.それが,ナディアが今日でも愛されている理由の一つかもしれません.

Story

物語は,1889年のパリ万国博覧会から始まります.万博の飛行コンテスト参加のためパリに訪れた少年ジャンは,自転車に乗った少女ナディアに一目惚れします.そこへ,ナディアがもつ不思議な宝石「ブルーウォーター」をねらう三人組が現れ,ジャンはナディアを助け,ジャンが発明した飛行機に乗って未知の冒険へと旅立つのです.

冒険の中では,世界征服をたくらむ謎の組織「ネオ・アトランティス」やそれに立ち向かう「ノーチラス号」との壮絶な戦いに巻き込まれ,ジャンとナディアはさまざまな出会いや別れを経験し,しだいに大人になる意味を知るのです.

Elements of Nadia

「ふしぎの海のナディア」の人気の秘密には,次の3つの要素があげられます.

Marine adventure Animation and Nadia

1990年当時日本のテレビアニメの中で海洋冒険アニメの評判はあまりよくありませんでした.なぜならば,海を描くことが大変難しく,単調な絵が続くためです.ナディアも例外ではありませんでした.特にナディアでは海の中,しかも潜水艦という限られた空間のため,キャラクターの描写は大変難しいと考えていたからです.

しかし,ナディアでは深海の神秘的な描写やリアルな戦闘シーン,艦内の緊迫した雰囲気を絶妙に描き,これまでの単調な絵が続く海洋冒険アニメの常識を覆したのです.

Nadia of Parody

ナディアの中ではさまざまなアニメのパロディを観ることができます.もともと「ふしぎの海のナディア」は,の企画書が「天空の城『ラピュタ』」にそっくりだったため(企画書の原案は,宮崎駿氏がNHKで「未来少年コナン」を制作しているときに書いたもので,その原案から「天空の城『ラピュタ』」も生まれました.),庵野秀明氏はパロディーを取り入れることでラピュタから離れようとしたのです.

庵野氏のパロディの手法は決して他の作品をそのまま引用したりするのではなく,ストーリーの中でごく自然にしかも,パロディーの元となっている作品がすぐにわかるように描いています.それは,今日多くのアニメでみられる他のアニメの一部分を継ぎ合わせて作った安っぽいパロディーではなく,パロディーの元となるアニメの良さを十分に理解し,その良さを損なうことなくナディアで表現されたことがナディアの面白さをさらに広げた要因であると思います.

Anno's World

庵野氏は「ロマンアルバムふしぎの海のナディア」(1991,徳間書店)の中で「ウソの作品は作りたくなかった」と述べています.ナディアで描かれた世界観は,思春期に彼がもった悩みや考えそのままだったのかもしれません.また,「戦争を描くには限界がある」とも述べています.庵野氏をはじめ今活躍する多くのクリエーターは戦後生まれで戦争を体験したことがありません.戦争を扱うアニメの多くは勧善懲悪で描かれていますが,庵野氏は戦争を体験していないなりの戦争観を描こうとしたのです.ネモ船長の行動を決して正当化することなく物語を終えたことは,何が善で何が悪なのかの判断を見た人に考えてもらいたいという庵野氏の考えだったのかもしれません.